
【ろうむテラス】
2026年夏
建設業の熱中症対策と
「育成就労制度」への
移行ロードマップ
いつも大変お世話になっております。
社会保険労務士の武田です。
連日厳しい暑さが続いておりますが、貴社におかれましては現場の安全管理・労務管理にご尽力されていることと存じます。
今月より、皆様の安全で働きやすい職場づくり、ならびに労務管理のアップデートにお役立ていただく目的で、【ろうむテラス】を定期的に送信させて頂く運びとなりました。
末永くご愛顧のほど、何卒よろしくお願いいたします。
さて初号となる本号では、建設業界の皆様へ向け、直近の必須課題である「夏の熱中症対策」と、来年(2027年)に向けた「育成就労制度への移行」に関する重要ポイントをお届けいたします。
【特集1】現場の安全管理・労務管理の最前線
連日厳しい暑さが続いておりますが、現場の安全管理・労務管理はいかがでしょうか。
2025年6月の労働安全衛生規則の改正により、職場における熱中症対策が罰則付きで「義務化」されてから1年が経過しました。義務化2年目となる本年(2026年)は行政による監督強化も見込まれる中、厚生労働省からは2026年3月に新たな「職場における熱中症防止のためのガイドライン」が公表され、企業にはより実効性のある対策が求められています。
本年の夏を安全に乗り切るため、法令に基づき確認すべき重要ポイントを3点にまとめました。
1. 報告体制と責任者の明確化
熱中症予防管理者を専任し、体調不良者(またはそのおそれがある者)が出た際の連絡網と対応手順をあらかじめ定め、関係作業者全員へ周知することが義務付けられています。
【実践手順】熱中症対策における報告体制と責任者の明確化
ステップ1:熱中症予防管理者の選任と権限の付与
≪方法≫
各現場に、熱中症対策の責任者となる「熱中症予防管理者」を選任します。
≪手順≫
➀現場の職長や安全衛生責任者の中から適任者を指名します。
②管理者に対し、「WBGT値(暑さ指数)の測定・記録」および「危険時の作業中断・休憩指示」を行う明
確な権限を与えます。
③この選任内容を社内および現場の体制図に明記します。
ステップ2:緊急時対応フロー(連絡網)の構築
≪方法≫
体調不良者が発生した際の、初期対応から救急搬送までの連絡経路をフローチャート化します。
≪手順≫
➀「発見者 → 熱中症予防管理者(職長) → 救急要請・元請け担当者 → 家族・本社」という報告ルート
を策定します。
②現場から最も近い救急病院(複数)の名称、電話番号、搬送ルートを事前にリストアップし、フローチ
ャートに組み込みます。
➂下請け業者が混在する現場では、元請けと下請け間の連絡ルールも統一します。
ステップ3:異常を早期発見するための日常的な報告ルールの設定
≪方法≫
作業員同士で体調の変化を報告し合える環境とルールを作ります。
≪手順≫
➀作業開始前の朝礼で、管理者が作業員全員の健康状態(睡眠不足、朝食の有無、前日の飲酒など)をヒアリングするチェック体制を設けます。
➁作業中は「バディ制(2人1組)」などを導入し、互いの顔色や発汗状態に異常がないか確認し合い、少しでも違和感があれば即座に管理者に報告するルールを定めます。
ステップ4:現場への周知徹底と定期的な教育
≪方法≫
策定した体制やフローを、すべての作業員(外国人労働者を含む)に理解させます。
≪手順≫
➀構築した「緊急時対応フローチャート」や「管理者の氏名」を、現場の休憩所や見やすい掲示板に必ず掲示します。
➁新規入場時教育の際、熱中症の初期症状と報告の重要性について必ず指導を行います。
➂外国人労働者がいる場合は、母国語で記載された対応マニュアルや図解入りのポスターを活用し、言葉の壁による報告遅れを防ぎます。
2. 作業環境の管理(WBGT値の活用)
熱中症予防に最も重要なのは、暑さ指数(WBGT)を可能な限り下げることです。WBGT計の定期的な測定に加え、日陰となる休憩場所の確保や通風設備の設置など、物理的な環境改善が不可欠です。
【実践手順】作業環境の管理とWBGT値(暑さ指数)の活用
2025年の法改正以降、熱中症対策において「WBGT値の把握とそれに基づく対策」は企業の義務として強く求められています。建設現場においては、以下のステップ順で環境管理を構築し、運用していく必要があります。
ステップ1:WBGT計(暑さ指数計)の選定と測定ルールの策定
まずは現場の状況を正確に把握するための準備を行います。
精度の低い機器では正しい判断ができないため、必ず「JIS規格(JIS B 7922)」に適合したWBGT計を用意します。その後、誰が、いつ(例:作業開始前、10時、13時、15時)、どこで測定するかという現場ごとの基本ルールを定めます。
※現場では専用の「WBGT計(暑さ指数計)」を用いて運用・管理してください。
ステップ2:実際の作業環境での測定と記録の徹底
気象庁の発表データだけでなく、実際の現場で測定を行うことが重要です。
直射日光の当たる場所、風通しの悪い屋内、照り返しの強いアスファルト上など、作業員が実際に働く環境のすぐそばで測定します。測定した数値は、管理者が専用のシートに毎日記録し、証拠として残します。
ステップ3:測定値(WBGT値)に基づく作業調整の実行
測定値に応じて、あらかじめ決めておいた「行動基準」を即座に発動させます。
厚生労働省の基準に基づき、WBGT値が28(厳重警戒)や31(危険)を超えた場合は、連続作業時間の短縮、休憩回数・時間の増加、あるいは熱負荷の低い軽作業への切り替えなどを躊躇なく実行します。
【熱中症予防の目安(WBGT値)】
■ WBGT値:31以上 [危険] 【原則、運動や重作業は中止】 特別の場合以外は運動を中止。高齢者は安静状態でも発生する危険性が大きいため、涼しい室内へ避難する。
■ WBGT値:28~31未満 [厳重警戒] 【激しい運動・重作業は中止】 外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意する。激しい運動や負担の大きい作業は避ける。
■ WBGT値:25~28未満 [警戒] 【積極的な休息と水分補給】 運動や作業の際は、積極的に休息をとり、こまめに水分・塩分を補給する(激しい運動は30分おきに休憩など)。
■ WBGT値:21~25未満 [注意] 【適宜、水分・塩分補給】 中等度以上の負荷がかかる作業や運動時には、熱中症の危険が生じるため、適宜水分・塩分補給を行う。
■ WBGT値:21未満 [ほぼ安全] 【適宜、水分補給】 通常は熱中症の危険は小さいが、適宜水分補給は心がける。
ステップ4:物理的な作業環境の改善と休憩所の整備
WBGT値を下げる、または作業員の熱負荷を軽減するための物理的な環境整備を行います。
現場のすぐ近くに日陰となる休憩場所(テントなど)を確保し、スポットクーラーや大型扇風機による通風設備を設置します。また、冷たい飲料水、塩分補給タブレット、身体を冷やすための氷や保冷剤を常備し、誰もが自由に利用できる状態を維持します。
3. 作業管理と労働衛生教育
WBGT値に合わせた作業時間の短縮や休憩の確保、計画的な暑熱順化(暑さに体を慣らすこと)プログラムの導入、定期的な水分・塩分補給が求められます。また、空調服や水冷服などの身体冷却装備の活用も有効です。
万が一、建設現場で熱中症による労災事故が発生した場合、元請け・下請け双方の安全配慮義務違反や損害賠償責任が厳しく問われる可能性があります。
【実践手順】熱中症対策における作業管理と労働衛生教育
現場の環境(WBGT値)を整えるだけでなく、作業そのものの負担を減らし、作業員自身の自己管理能力を高めることが熱中症予防の要となります。以下の4つのステップで、現場に即した管理と教育を進めていく必要があります。
ステップ1:季節前および新規入場時の労働衛生教育の実施
本格的な暑さを迎える前、または新規の作業員が現場に入るタイミングで、予防のための基礎知識を教育します。
➀熱中症の初期症状(めまい、立ちくらみ、こむら返りなど)と、重症化の危険性について指導します。
➁睡眠不足、二日酔い、朝食未摂取が熱中症リスクを急激に高めることを説明し、日常的な体調管理の重要性を啓発します。
➂万が一、自身や周囲の作業員に異常を感じた際の「報告ルール(誰に・どうやって伝えるか)」を再確認させます。
ステップ2:暑熱順化(体を暑さに慣らす)プログラムの計画と実行
人間の体が暑さに慣れ、汗をかきやすい体質(暑熱順化)になるには、数日から2週間程度かかります。この期間の作業管理が極めて重要です。
➀お盆休みなどの長期休暇明けの作業員や、新たに現場に配属された作業員をリストアップします。
➁該当する作業員に対しては、初日からフルタイムで作業させるのではなく、最初の数日は午前中のみの作業にする、または熱負荷の少ない軽作業に割り当てるなど、徐々に作業時間を延ばす計画(順化スケジュール)を立てて実行します。
ステップ3:WBGT値に応じた連続作業時間の短縮と適切な休憩の確保
環境測定(WBGT値)の結果を、実際の作業スケジュールに反映させます。
➀「WBGT値が〇〇の時は、〇〇分作業して〇〇分休憩する」という自社の基準を明確に定めます。
➁単に休憩時間を長くするだけでなく、連続して作業する時間を短くすること(例:60分連続作業を、30分作業+小休止×2回に分割する等)が、深部体温の上昇を防ぐ上で非常に効果的です。
➂休憩中は、必ず日陰や冷房の効いた休憩所へ移動させ、靴やヘルメットを脱いで熱を逃がすよう指導します。
ステップ4:計画的な水分・塩分補給と冷却装備の着用ルールの徹底
「喉が渇いた」と感じる前に行動させるための管理を行います。
➀「喉が渇いていなくても、〇〇分ごとに紙コップ1杯の水を飲む」といった、時間主導型の水分補給ルールを定め、管理者が声掛けを行います。
➁大量の発汗を伴う作業では、水だけでなく塩分(経口補水液や塩飴など)の摂取も義務付けます。
➂空調服(ファン付きウェア)や水冷服、ネッククーラーなどの身体冷却装備を会社から支給し、適切な着用方法とバッテリー管理について指導します。
現場の安全管理と適切な労務管理は、単なる法令遵守にとどまらず、企業の大切な財産である「従業員の皆様」の命と健康を守り、事業の安定的な成長を支えるための最重要課題です。
万が一、労働災害や重大な労務トラブルが発生した場合、企業が負う経済的・社会的ダメージは計り知れません。だからこそ、事が起きる前の「予防」と、自社の「現状把握」が何よりも大切になります。本特集でお伝えしたポイントが、貴社の現場環境や管理体制を今一度見直すきっかけとなれば幸いです。
【特集2】技能実習制度から「育成就労制度」への移行ロードマップ
2027年4月1日より、現行の技能実習制度が廃止され、新たに「育成就労制度」が施行されます。
建設業においても外国人材の確保は重要な経営課題ですが、新制度でスムーズに人材を受け入れるためには、2026年内の準備と意思決定が勝負となります。今後の具体的なスケジュールは以下の通りです。
◆監理支援機関の許可申請受付開始:2026年4月15日
既存の監理団体が、新制度の「監理支援機関」として継続するための申請が開始されています。現在お付き合いのある機関が新制度へ対応できるか、動向を確認する重要な時期です。
【実践手順】監理支援機関の許可申請受付開始に伴う、受け入れ企業の対応ステップ
前提として、「監理支援機関」の許可申請を行うのは受け入れ企業(貴社)ではなく、現在お付き合いのある「監理団体(事業協同組合など)」です。
したがって、2026年4月の申請受付開始を受け、各企業が最優先で行うべきは「現在の委託先が新制度へ適法に移行できるかを見極め、自社の人材受け入れルートを確実なものにすること」です。
ステップ1:現在の監理団体への状況・意向確認
まずは、現在技能実習生を受け入れている監理団体に対し、新制度の「監理支援機関」への移行申請をすでに行ったか、あるいはいつ行う予定かを書面やメールで確認します。
万が一、「移行しない(解散する)」または「要件を満たせず移行できない」という回答があった場合は、早急に新たな委託先を探す必要があります。
ステップ2:新制度における適格性とサポート体制の評価
新制度では、監理支援機関に対して「外部監査人の設置」や「職員の専門性向上」など、これまで以上に厳格な要件が求められます。現在の監理団体がこれらの要件をクリアできる経営基盤を持っているか、また、育成就労制度の目的である「特定技能への移行」に向けた日本語教育や技能育成のサポート体制が十分に整っているかを、企業側から評価・ヒアリングします。
ステップ3:委託先機関の最終決定と基本合意
ステップ2の評価に基づき、現在の機関と継続して契約するか、新たな機関へ変更するかを2026年夏(遅くとも8月頃)までに決定します。継続する場合は新制度下での費用負担(監理費の変更など)について事前協議を行い、変更する場合は他の協同組合等への加入手続きを速やかに開始します。
ステップ4:自社の「育成就労計画」作成に向けた準備開始
委託先の機関が確定したら、次は2026年9月から始まる受け入れ企業側の「育成就労計画」の事前認定申請に向けた準備に移ります。監理支援機関と連携しながら、新制度に対応した就業規則の改定、労働条件通知書の整備、および外国人材向けのキャリアパス(賃金規程)の見直しに着手します。
◆採用ルートの最終判断目安:2026年8月頃
2026年秋以降の人材受け入れについて、現行の「技能実習」枠で急ぎ進めるか、2027年からの「育成就労」での受け入れを待つか、社内の採用方針を固める実質的な分岐点となります。
◆育成就労計画の事前認定申請スタート:2026年9月1日
受け入れ企業側の「育成就労計画」の事前申請受付が開始されます。
2027年4月の施行直後から人材を現場に配属するためには、この時期からの早期申請が必須です。
【実践手順】「育成就労計画」の作成に向けた具体的な方法と手順
新制度である育成就労制度では、外国人材を3年間で「特定技能1号」の水準まで育成することが企業の義務となります。そのため、これまでの技能実習計画以上に、具体的なキャリアパスと公平な待遇整備が求められます。各企業は以下のステップ順に沿って計画を策定する必要があります。
ステップ1:育成目標の定義と業務ロードマップの策定
≪方法≫
3年間で習得させる技能目標と、担当させる業務内容を段階的に定めます。
≪手順≫
➀受け入れる職種(建設業の各業務など)において、最終的にどの「技能検定」や「特定技能評価試験」に合格させるかをゴールとして設定します。
➁ゴールから逆算し、1年目、2年目、3年目にそれぞれどのような現場作業を経験させ、どの程度の技能を習得させるか、具体的な育成スケジュールを計画書に落とし込みます。
ステップ2:日本人と同等以上の報酬水準・労働条件の設定
≪方法≫
不当な待遇格差を防ぐため、同じ業務に従事する日本人労働者と同等以上の賃金や労働条件を設計します。
≪手順≫
➀自社の賃金規程を確認し、基本給だけでなく、各種手当(通勤手当、住宅手当、資格手当など)が日本人と同等の基準で支給される仕組みを整えます。
➁技能の習熟度や日本語能力の向上に応じた「昇給の基準」を明確にし、キャリアパスとして外国人材へ提示できる労働条件通知書(母国語併記)を作成します。
ステップ3:日本語能力の向上と生活支援体制の構築
≪方法≫
新制度で厳格化される「日本語能力要件」をクリアするための学習支援と、日常生活のサポート体制を定めます。
≪手順≫
➀監理支援機関と協議し、就業時間内の学習時間の確保や、オンライン日本語学習サービスの提供、受験費用の会社負担など、具体的な学習支援策を決定します。
➁住居の確保、生活環境の整備、トラブル時の相談窓口など、企業として責任を持って行う生活サポートの内容を計画に盛り込みます。
ステップ4:必要書類の収集と「育成就労計画」の認定申請(2026年9月〜)
≪方法≫
策定した内容を公式なフォーマットにまとめ、出入国在留管理庁・厚生労働省(外国人技能実習機構など)へ提出します。
≪手順≫
監理支援機関の指導を受けながら、所定の「育成就労計画書」を作成します。
①計画を裏付ける添付書類として、改定済みの「就業規則」「賃金規程」「労働条件通知書」、および「役員の誓約書」などを収集・整備します。
➁監理支援機関経由で事前認定申請を行い、2027年4月の新制度施行に備えます。
◆監理支援機関の許可申請推奨期限:2026年9月末
審査には通常3〜4ヶ月を要するため、2027年4月の施行に間に合わせるためには、遅くともこの時期までの申請完了が強く推奨されています。
◆育成就労制度の施行:2027年4月1日
新制度が正式にスタートします。
これ以降、技能実習としての新規受け入れはできなくなりますが、既に在籍している技能実習生は、経過措置として在留期間満了まで継続して就労が可能です。
技能実習制度から新設される「育成就労制度」への移行は、すでに外国人材を受け入れている企業様、あるいは今後検討されている企業様にとって、非常に大きな転換点となります。これまでの「国際貢献」という目的から、日本の深刻な人手不足を解消するための「人材確保と育成」へと制度の趣旨が根本から変わります。
それに伴い、受け入れ企業様には、より厳格なコンプライアンスの遵守と、外国人材が中長期的に定着して活躍できる労働環境(キャリアアップや日本語学習の支援など)の整備が求められることになります。
本格的な施行に向けて、場当たり的な対応ではなく、今のうちから自社の労務管理体制を点検し、新しいロードマップに沿った準備を計画的に進めることが、将来にわたって優秀な人材を確保し続けるための最大の鍵となります。
☆
今回は、「現場の安全管理・労務管理(熱中症対策の徹底)」と、2027年に控える「技能実習制度から育成就労制度への移行ロードマップ」という、建設業界において直近かつ最重要な2つのテーマをお届けいたしました。
連日の猛暑下における従業員の皆様の命を守る安全衛生体制の強化と、今後の現場を支える外国人材の適正な受け入れ準備は、どちらも計画的かつ迅速な対応が求められる重要な課題かと存じます。
ぜひ、貴社の労務管理のアップデートにお役立てください。
本記事が、貴社の安全で働きやすい職場づくり、ならびに円滑な新制度への移行準備の一助となれば幸いです。
厳しい暑さがまだまだ続きますが、従業員の皆様のご健康と、現場でのご安全を心よりお祈り申し上げます。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。