15分単位切り捨ての違法性と代償
- Unite-ventures.com
- 2 日前
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先日、全国展開する大手飲食チェーン店に対して、労働基準監督署から是正勧告が出され、大きなニュースとなりました。
その内容は「1分でも遅刻した場合、15分単位で労働時間を切り捨てていた」ことにより、過去3年分にさかのぼって未払い賃金を清算するという衝撃的なものです。
実はこの「15分単位の切り捨て」や「丸め処理」、昔からの慣習で悪気なく行っている企業がまだまだ少なくありません。「うちの会社もやってるかも…」とヒヤッとした経営者様、人事担当者様へ向けて、今回のニュースから学ぶべき「15分単位切り捨ての違法性と代償」について、人事労務のプロが分かりやすく解説します。
1. なぜ「1分遅刻で15分カット」は違法なのか?
今回のケースの最大の焦点は、「実際に働いた時間に対して、賃金が支払われていない」という点です。
労働基準法第24条には「賃金全額払いの原則」が定められています。賃金は、労働者が働いた時間(分単位)に対して全額支払われなければなりません。
例えば、9:00始業の社員が9:01に出社し、すぐに働き始めたとします。
【違法な処理】 1分遅刻したペナルティとして、始業時間を「9:15」に切り上げ、14分間の労働を「なかったこと」にして賃金をカットする。
【合法な処理】 遅刻した1分間は「ノーワーク・ノーペイの原則」で賃金カット可能。ただし、9:01から働き始めたのであれば、9:01からの賃金は1分単位で支払う。
つまり、遅刻に対するペナルティ(罰)を、勝手に労働時間の切り捨て(賃金カット)で相殺してはいけない、というのが法律の絶対ルールなのです。
2. 過去「3年分」の清算という悪夢
ニュースの中でさらに恐ろしいのが、「過去3年分にさかのぼって清算する」という部分です。
労働基準法の改正により、未払い賃金の請求権(消滅時効)は現在「3年」となっています(※将来的には5年になる予定です)。
仮に1回の切り捨てがたった数百円だったとしても、「対象社員全員分 × 過去3年間(約1,000日)」となれば、数千万〜数億円という莫大な未払い賃金と遅延損害金が発生し、企業の屋台骨を揺るがす事態になりかねません。
「少しの遅刻へのペナルティ」のつもりが、会社を倒産危機に追い込むほどの特大ブーメランになって返ってくるのが、現代の労務コンプライアンスの怖さです。
3. 「遅刻に対する罰」はどう与えるべきか?
では、1分でも遅刻したら会社は泣き寝入りして、1分単位で給与を払い続けなければならないのでしょうか?
「規律を守らせるためのペナルティ」を与えたい場合は、以下のいずれかの方法を正規のルールとして就業規則に定める必要があります。
対処法A:就労開始時間を遅らせる(指揮命令権の行使)
9:01に出社した社員に対して、「遅刻した場合は、次の15分区切りである9:15まで業務を命じない(待機させる)」というルールを設けます。
9:15まで一切仕事をさせず、休憩室等で待機させていれば、その時間は労働時間ではないため、9:15からの給与計算で問題ありません。(※ただし、待機中に電話番などをさせたらアウトです)
対処法B:「減給の制裁」として処理する
遅刻という「服務規律違反」に対して、就業規則に基づく懲戒処分(減給の制裁)を行う方法です。
ただし、これには労働基準法第91条により「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない」などの厳しい制限があります。また、たった1分の遅刻に対して14分相当の減給を行うことが「処分の重さとして妥当か(権利の濫用にあたらないか)」という問題もあるため、あまり現実的な運用ではありません。
4. 人事労務が今すぐやるべき「3つのチェック」
今回のニュースを対岸の火事とせず、自社の足元を見直す良い機会と捉えましょう。以下の3点を今すぐチェックしてください。
タイムカード・勤怠システムの「丸め設定」の確認:
システム上で自動的に「15分単位の切り上げ・切り捨て」が設定されていませんか?(※例外として、1ヶ月の総労働時間の端数を30分単位で四捨五入することは、労働者に有利になる場合もあるため一定の条件下で認められていますが、日々の切り捨てはNGです)
給与計算担当者の認識すり合わせ:
「昔からこうやっているから」という理由で、手計算で端数を切り捨てていませんか?
就業規則の「遅刻・早退」規定の見直し:
遅刻時の取り扱い(給与控除の計算方法や、ペナルティの与え方)が、法律に則して明確に記載されているか確認しましょう。
【まとめ】
「たかが1分、されど1分」。労働時間は従業員の命を削った大切な時間です。デジタル化が進み、個人の権利意識が高まっている今、「昔ながらのどんぶり勘定」は通用しません。
もし「自社の勤怠システムの設定が不安だ」「就業規則の遅刻規定をどう直せばいいか分からない」という場合は、放置せずに早めに人事労務の専門家にご相談ください。
トラブルが起きてからでは遅いのが、労務問題の鉄則です。




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