【緊急点検】さよなら「106万円の壁」。2026年10月の社会保険適用拡大で、あなたの会社が直面するリアルと処方箋
更新日:9月7日

日々、経営者や人事担当者の皆さまと膝を突き合わせていると、最近決まってため息交じりに相談されるテーマがあります。「先生、また社会保険のルールが変わるって本当ですか? うちのパートさんたち、どうなっちゃうんでしょうか…」と。
お気持ち、痛いほどわかります。
最低賃金の引き上げに次ぐ引き上げで人件費が高騰している最中に、追い討ちをかけるような法改正。
しかし、ため息をついていても2026年10月は容赦なくやってきます。
今回は、2026年10月に控えるパートタイム・有期雇用労働者の「社会保険適用拡大」について解説します。
経営へのインパクトを最小限に抑えるためのヒントを持ち帰ってください。
1.容赦なき社会保険適用拡大。ついに「月額8.8万円の賃金要件」が消滅する日
まずは、2026年10月に何が起きるのかを整理しましょう。
一言で言えば、「106万円の壁」と呼ばれてきた月額8.8万円以上の賃金要件が撤廃されます。
これまで、パートやアルバイトが社会保険に加入する条件には、「週の所定労働時間が20時間以上」であることに加え、「月額の賃金が8.8万円(年収換算で約106万円)以上であること」という要件がありました。しかし、2026年10月以降は、この賃金要件がきれいさっぱりなくなります。
つまり、「週20時間以上働いていて、2ヶ月超の雇用見込みがある学生以外の労働者」は、月給がいくらであろうと原則として社会保険の加入対象になるわけです。
「えっ、うちの会社も全員対象になるの?」と慌てた方、少し落ち着いてください。
実は2026年10月の段階では、まだ「企業規模要件」の壁が残っています。
現行のルール通り、基本的には「厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業」が対象です。
しかしこの企業規模要件も、2027年10月には36人以上、その後も段階的に縮小され、2035年には完全撤廃されるロードマップがすでに敷かれています。
そもそも、全国的に最低賃金が時給1,000円を超えてきている今、週20時間も働けば月額8.8万円なんてあっという間に突破します。「賃金要件の撤廃」は、もはや実態に追いつくための後追いに過ぎません。
重要なのは、国が「パートも全員、社会保険に入れなさい」という強烈なメッセージを発しているという事実です。
2.パートの反乱?「手取りが減るなら辞めます」へのリアルな対処法
さて、ここからが人事担当者の胃が痛くなる実務の裏側です。
社会保険の加入対象者が拡大することで現場で何が起きるか。それは、「手取りが減るなら、働く時間を減らします」という強烈な就業調整(働き控え)の波です。
社会保険に加入すれば、従業員の給与からは約15%の保険料が天引きされます。
これまで月収10万円で丸々10万円を受け取っていたパートスタッフの手取りが、いきなり8万5千円に減ってしまうわけです。「将来もらえる年金が増えますよ」とか「傷病手当金が出ますよ」といった正論を伝えても、今日の晩ご飯のおかず代が減ることをパートの方々は極端に嫌がります。
その結果、「じゃあ、週19.5時間未満のシフトにしてください」と申し出てくるスタッフが続出します。人手不足の折に、既存スタッフの労働時間が削られるのは経営にとって致命傷になりかねません。
では、どうすればいいのか?
国もこの事態を想定して、2026年10月から新たな特例措置である「保険料調整制度」の導入を予定しています。
これは、年収156万円未満の労働者に対して、本来は労使折半である保険料のうち、事業主が労働者の負担分を多めに肩代わり(追加負担)できるという仕組みです。事業主が追加負担した分については、国からの支援も検討されています。
しかし、ぶっちゃけた話をしましょう。
この制度、いつまで続くかわからない時限措置の可能性が高い上に、手続きが煩雑になるのは目に見えています。
根本的な解決策は、「社会保険料を引かれても、手取りが以前より増えるように労働時間を延ばしてもらう」か、「時給を上げて報いる」かの二択しかありません。小手先のテクニックではなく、自社のパートタイム労働者にどういう働き方を期待するのか、雇用戦略そのものを再定義するタイミングが来ているのです。
3.経営を圧迫する「会社負担増」という見えないコスト
従業員の手取り問題ばかりに目が行きがちですが、経営者として絶対に見落としてはいけないのが「法定福利費(会社負担分の社会保険料)」の激増です。
社会保険料は労使折半ですから、従業員が負担するのと同じ金額(給与の約15%)を、会社も負担しなければなりません。例えば、月給10万円のパートスタッフが新たに社会保険に加入した場合、会社は年間で約17万円の負担増となります。対象者が10人いれば年間170万円、30人なら510万円です。利益率5%のビジネスなら、510万円のコスト増を吸収するために1億円以上の売上アップが必要になる計算です。ゾッとしますよね。
さらに追い討ちをかけるように、2026年4月からは「子ども・子育て支援金(労使折半で健康保険料に上乗せ)」の徴収も始まっています。会社が負担する社会保障費は、今後も右肩上がりで増え続ける確定路線なのです。
この「見えない爆弾」に対して、実務担当者が今すぐやるべきことは2つです。
➀対象者の正確な洗い出しとコスト試算
2026年10月以降、自社で新たに加入対象となる従業員は何人か。それに伴う会社負担増は年間いくらになるか。まずはエクセルで構わないので、リアルな数字を叩き出してください。
➁労働時間の二極化戦略
週20時間以上働いてしっかり稼ぎたい層と、扶養の範囲内で少しだけ働きたい層を明確に分け、中途半端なシフトをなくすシフト管理の再構築が必要です。
4.まとめ
2026年10月の「賃金要件の撤廃」は、単なるルールの変更ではありません。
「安い労働力としてパートを活用する」という昭和から続くビジネスモデルに対する、国からの引導です。
「まだ先のことだから」「うちには関係ないかもしれない」と高を括っていると、気づいたときには手遅れになります。パートスタッフからの不満が爆発し、経営計画には載っていなかった莫大な社会保険料の請求書が届くことになります。
まずは自社の現状を把握し、シミュレーションを行うことから始めましょう。
法改正の波を乗り越え、より強い組織を作っていくことに意識を向かわせるべきです。



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